問い 長年住んでいた借家から転居することになりましたが、家主さんから原状回復をするよう求められました。何をすれば良いのでしょうか。 答え 転居によって建物の賃貸借契約が終了すると、借主には原状回復をす …続きを読む
■1 事案の概要
この事件は、クラブNOONの実質的経営者(以下、「オーナー」と言います。)が,大阪府公安委員会の許可を得ず,「ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ飲食させる営業」を行ったとして,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」といいます。)に基づき,無許可営業罪で逮捕・勾留され、起訴されたというものです。
摘発された当時,NOONでは,イギリスのロック・ミュージックをテーマとしたDJイベントが行われていました。20人前後のお客さんが,フロアで音楽を楽しんでいました。そこに,あらかじめ店内に潜入していた捜査員十数名を含む警察官45名が強制捜査を行い,オーナーの他NOONのスタッフ8人を逮捕しました。
■2 弁護団の弁護方針
オーナーは、「自分は誇りを持ってクラブをやってきた、音楽文化、ダンス文化に貢献してきた自負もある。そのような営業を、性風俗産業と一括りにされ、風営法の規制を受け、警察のお許しがなければ経営できないという状況や偏見には納得できない、だから真正面から争いたい。」との確固たる信念を持っていました。
そもそも、なぜ客にダンスをさせる営業が公安委員会の許可制となったのでしょうか。風営法の前身の風俗営業取締法が制定されたのは昭和23年です。進駐軍が日本を占領していた頃のダンスホールは、ホール付きの女性ダンサーが、お客さんと身体を触れ合わせてダンスの相手をし、時に売春交渉を行う、つまり売春の温床になっているとの見立てがあったようです。そこから60年以上が経ち,社会におけるダンスの評価,風俗や文化のありようが大きく変化しました。それにもかかわらず,なおダンスを指標に性風俗秩序を統制しようとするダンス営業規制は残存したままになっていました。
そこで、私たち弁護団は、売春防止法の制定によりダンスホール営業規制は死文化し、もはや人に刑罰を科す実質的根拠を失った時代遅れの法律であること、ダンスやクラブを一律にいかがわしいものとみなし,厳しく規制する風営法は,憲法21条1項の保障する表現の自由,憲法22条1項の保障する営業の自由を不当に侵害する違憲の法律であること、NOONにおいて,性風俗秩序を乱すおそれのあるいかがわしいダンスをお客さんにさせたことはないとして,犯罪が成立しないことを主張、立証することにしました。
■3 一審判決(2014年4月25日)
大阪地方裁判所は,風営法ダンス営業規制の趣旨を「風営法2条1項3号の文言に形式 的に当てはまるのみならず,具体的な営業の態様から,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸し出し,単に抽象的な可能性にとどまるのではなく,わいせつ行為の発生など,性風俗秩序を乱す具体的なおそれがある営業を規制することによって,善良な風俗及び清浄な風俗環境を保持し,青少年の健全な育成を保護する目的」と限定的に解釈すべきであることを明言しました。そのうえで,オーナーが経営に携わっていたNOONの営業実態について,「お客さんの行っていたダンスそのものは,それだけでは性風俗秩序を乱すおそれのあるものとはいえない。DJらの演出も,音楽や映像を使って単に盛り上がっている域を超えていたものとは認められないし,露出の多い服装を煽るなど,ことさらにわいせつを煽るような演出がされていたとも認められない」と認定して,NOONが,風営法の規制対象にあたらないと判断しました。
本判決は,結論として,風営法のダンス営業規制が,直ちに憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害しているとはいえないことを述べたものの,クラブ経営者の企画運営や,クラブでダンスに興じる客の行為が,場合によっては,憲法の保障が及ぶ表現行為に該当し得ることに触れた点でも,画期的な判決でした。無許可風俗営業罪が問われる事件では極めて異例の18人もの証人尋問を行って,緻密に事実を認定し,常識に合致する判断を示したもので、これは高く評価できるものです。
■4 控訴審判決(2015年1月21日)
検察官が控訴したため、舞台は大阪高等裁判所へ移りました。検察官は,客にダンスと飲食をさせる営業は,一律・形式的に公安委員会の許可が必要との主張を展開しました。これに対し,大阪高等裁判所は,検察官の解釈は過度に広汎で,適法な営業も規制対象に含んでしまうとして,風営法2条1項3号の「ダンス」を「男女が組となり,身体を接触させるのが通常の形態であるダンス」と限定し,このようなダンスを客にさせる営業のみを規制対象とすべきであるとし、検察官の主張を退け、控訴を棄却し無罪判断を維持しました。
■5 結び
オーナーの「自分自身がこれまでやってきたことすべてを否定された。」という強い憤りから始まった裁判でした。「自分のやってきたことが間違いではなかった。」と、クラブ経営に対する誇りを取り戻す場に支援者の皆さんとともに立ち会えたことは、私自身の大きな喜びとなりました。 この裁判を通して、警察官の濫用的捜査に対し警鐘を鳴らすとともに、風営法の「ダンス」を指標とする営業規制そのものが、もはや時代にそぐわない時代遅れの規定だということが浮き彫りとなりました。判決文を読み返すと、裁判所は、もはや時代遅れであることが明らかとなった法令自体を違憲無効であるとの判断に踏み込むべきだったのではないかとも感じています。 今後、風営法の改正法案が国会で審議入りする予定ですので、是非こちらのほうにも引き続きご注目いただければと思います。