コラム

「国民の理解と歴史の検証」に耐えうる文書管理はなされているか

2021.04.20

古代の中国では天子や皇帝の言動をつつみ隠さずに記録する官吏(かんり) の職があった。ある韓国の歴史ドラマでも、横暴を振るう王のかたわらで、せっせと筆を走らせている官吏(かんり)らしき人物がいた。アメリカでも大統領などによる政策・判断に関する詳細な公文書が国立公文書館などに保管されている。「30年前の機密解除された外交記録で新事実発見!」などの 報道がされるのを目にした記憶がみなさんにもあると思う。一方、わが国ではどうだろうか。

安倍首相の時、「官邸の守護神」と呼ばれた黒川検事長が、定年に達してもやめずに検事長の職にとどまるという異常な人事が行なわれた。その時の政府のやりとりの真相を公文書の開示という方法で明らかにしようとする裁判が昨年の9月から始まっている。「あるはずの文書がなく、ないはずの文書 が出てきた」という疑惑を問う裁判である。検察官は政治権力から独立して 職務を行なうことが法で定められており、時には総理大臣や国会議員を逮捕・ 起訴するかどうかも判断する。黒川検 事長の人事は、国会でも取り上げられ た。「定年後の勤務延長は検察官には適用しないのが現在でも政府・人事院 の公式解釈である」という人事院局長の答弁が、政府解釈に反するということでその後で撤回される(させられる) という事件も起きた。「国民の理解と 歴史の検証に耐えうる政府文書の作成とその情報公開がなされているか」という観点から、政府の活動を監視しその真相を問う裁判でもある。