コラム

公立中学校における熱中症事故裁判

2017.05.25

毎年、夏は記録的な猛暑が続いています。

数年前から、学校の部活動中に生徒が熱中症を発症し、死亡や重篤な後遺症が残るといった事故が相次いで報道されるようになり、部活動中の熱中症対策が叫ばれるようになりました。

 

Aさんが、バドミントン部の部活動中に、熱中症による脱水から脳梗塞を発症したのは、中学1年生のときでした。

 

連日、30℃を超える猛暑が続く夏休みの間、Aさんは、毎日バドミントン部の部活動に参加し、熱心に練習に打ち込んでいました。

 

事故が起きた日、Aさんは、扉や窓を閉め切って、サウナのように暑くなった体育館の中で、激しい運動を数時間続けた後、左半身の麻痺や頭痛を訴え、病院に搬送されました。

 

Aさんは、脱水から脳梗塞を発症しており、数ヶ月入院して治療を受け、リハビリをしましたが、左半身に麻痺が残ってしまいました。

 

事故当時、体育館の中は、30℃以上の高温・高湿度という過酷な環境で、熱中症発症の危険が極めて高い状況でした。

そのような環境下で、中学校がAさんら生徒に激しい運動をさせたことに問題はなかったのか?

 

Aさんは、中学校が、きちんと熱中症予防対策をしていなかったことが原因で、脳梗塞を発症したのではないかと考えて、中学校の設置主体である市に対して損害賠償請求訴訟を起こしました。

 

裁判の中で、私たちは、中学校に熱中症を予防する義務があったにもかかわらず、その義務に違反していたことを明らかにするため、文部科学省が、全国の学校に対して配布した「熱中症予防のための運動指針」を示しました。

 

「熱中症予防のための運動指針」によると、「WBGT31℃(乾球温度35℃)以上の場合、運動は原則中止。WBGT28℃(乾球温度31℃)以上の場合、激しい運動は中止。」など、運動中の熱中症予防のための具体的な指針が示されています。

 

ところが、中学校は、この運動指針を守るどころか、温度を測るための温度計すら設置しておらず、生徒を指導する教師も、運動指針の内容を分かっていませんでした。

 

裁判所は、学校には「熱中症予防のための運動指針」に従って熱中症を予防する義務があることを認め、中学校に義務違反があったと認定して、市に損害賠償を命じる判決を出しました(大阪地方裁判所 平成27年5月24日判決)。

 

裁判所が、はっきりと学校の責任を認める判決を出したことは画期的で、Aさんやご家族には、大変喜んでいただきました。

 

その後、裁判は控訴されましたが、控訴審でも学校の責任を認める判決が出されました(大阪高等裁判所 平成28年12月22日判決)。

 

それだけでなく、一審判決では、Aさんの損害額について、女性であることを理由に、女性労働者の平均賃金をベースにした低い損害額しか認められていなかったのですが、全労働者の平均賃金をベースにした損害額が認められるべきだという私たちの主張が認められ、損害額が加算されるという良い結果を導くことができました。

 

裁判を通して、学校が子どもの安全を守ることの重要さと、保護者を含め学校を取り巻く大人が、学校内の安全対策について関心を持ち、見守っていくことの大切さを感じました。