コラム

学童保育の先生、クビ切り(雇止め)事件で勝利判決

2015.04.02

■30年以上働き続けた職場を追われる

越智康純さん、中山洋美さんは、東大阪市内の小学校の学童保育クラブで指導員として働いてきました 。学童保育に通う子どもたちが放課後や土曜、春・夏・冬休みに一緒に生活を営んだり、遊んだりする「先生」です。

東大阪市では、元々学童保育は市が直営で行っていましたが、平成元年度から、「分割民営化」され、小学校区毎に地域の役職者等で構成する「地域運営委員会」が運営していました。 越智さんと中山さんは、東大阪市の直営時代から、30年以上指導員として働いてきました。良い学童保育にしようと努力するとともに、指導員が安心して働き続けられるよう、労働組合(東大阪ちびっ子労組)の活動にも取り組んできました。

ところが、2人が勤務する学童保育クラブの運営委員会は、2014年3月、指導員の勤務時間を短縮すると一方的に通告しました。時給制なので勤務時間短縮は賃金減額につながる労働条件の不利益変更です。越智さんと中山さんが、「おかしい」と言うと、運営委員会は契約を年度末で打切り(雇止め)、2人ともクビにしてしまいました。

越智さんと中山さんは、労働組合を通じて話し合いをしようと、運営委員会に団体交渉を申し入れました。使用者は労働組合からの団体交渉を拒否することはできません(不当労働行為になります)。ところが、運営委員会は「指導員は労働者ではない。『有償ボランティア』である」と言って団体交渉を拒否し、話し合いのテーブルにつこうともしませんでした。

■学童保育指導員は「労働者」-裁判勝利から職場復帰へ

越智さん・中山さんは、運営委員会によるクビ切り(雇止め)は無効だとして裁判を起こしました。裁判では、学童保育指導員が「労働者」かどうかが唯一の争点となりました。  2015年3月13日、大阪地方裁判所(中島崇裁判官)は、学童保育指導員は「労働者」であると認定し、越智さん・中山さんを100%勝たせる判決を言い渡しました。

「労働者」か否かは、使用者と指揮監督関係があるか、報酬が労務の対価として支払われているかなど、労務の提供の実態を考慮して判断されます。

判決は、規約上「運営委員会により命じられたこと」が指導員の職務とされていること、業務時間や指導方法を指導員の間で調整する必要があり、運営委員会が指揮監督権限を持っていないと学童保育の運営自体が困難であることなどから指揮監督関係ありとしています。また、指導員が時給制であることから報酬が労務の対価であることを認定し、源泉徴収や雇用保険加入がなされていることを踏まえ、「労働者」性を認めました。

2人は、勝訴判決をてこに、労働組合とともに、運営委員会にクビ切りの撤回を求め交渉しました。運営委員会は判決を受け入れ、2015年4月、2人は1年ぶりに、子どもたちのいる学童保育クラブへ戻ることが出来たのです。

■本件で問われたもの

越智さんと中山さんは、地域の人や子どもたち・保護者に信頼されて働いてきた、ベテランの学童保育指導員です。沢山の人の応援を力に1年で職場に戻ることができましたが、本来クビにすることなど出来る理由はありませんでした。

それが今回の雇止め事件に至ったのには、学童保育指導員の地位が曖昧で、「労働者」として、きちんと位置づけられていなかったことが背景にあります。更には、1989年4月に学童保育が自治体から地域運営委員会に「民営化」され、自治体が使用者としての責任を負わない体制が続いてきたことが遠因になっていました。

指導員が労働者として安心して働き続けることが、子どもたちの安全と成長を保障する、より良い学童保育の提供につながります。そして、指導員の労働条件の保障は、民間の事業者ではなかなか実現しない実態もあります。越智さん・中山さんのクビ切り事件は勝利で終わりましたが、運営主体の「民営化」方針が正しいかを、引き続き問い直していく必要を感じています。

(弁護団は、当事務所の城塚健之・原野早知子・藤井恭子及び谷真介弁護士)