問い 長年住んでいた借家から転居することになりましたが、家主さんから原状回復をするよう求められました。何をすれば良いのでしょうか。 答え 転居によって建物の賃貸借契約が終了すると、借主には原状回復をす …続きを読む
水道工事妨害で他人名義が判明
Aさんらが居住する分譲住宅一帯が水洗化されることになりました。
住民一同で下水道工事業者のBさんに依頼をし、開通を楽しみにしていたところ、ある日、突然、配管が予定されている自宅前の私道を買ったと称する人物が現れ、Bさんをやめさせない限り、下水道工事そのものに同意しないと言いだして、手続がストップしてしまいました。
不審に思って調べてみると、私道の共有者にAさんの名前が見あたりません。この私道は、分譲住宅とセットで販売され、住民の共有地とされているものですが、Aさんの手元にある売買契約書ではちゃんと購入したことになっているのに、その移転登記がされていなかったのです。これは司法書士の登記ミスとしか考えられません。
その結果、売主の不動産業者の共有持分名義が残っていて、それがつい最近、まったく面識のない人物の名義に変えられていました。この人物が、Bさんから水洗化工事を横取りするために、Aさんの共有持分の登記ミスに乗じて、売主の不動産業者からこの共有持分を取得し、工事を妨害していたのでした。
許せないのは、売主の不動産業者と、ライバル業者を蹴落とすためには手段を選ばない工事業者ですが、Aさんは、みんなが楽しみにしていた水洗化工事がストップしているのが自分のせいではないかと思い悩んでいました。
仮処分申立と裁判提起
相談を受けた谷智恵子弁護士と私は、さっそく、裁判所に私道の処分禁止仮処分を申立てました。不動産に関わる訴訟では、相手が裁判の途中で登記名義を変更したりすると権利の回復が困難になるので、正式裁判を起こす前にこうした仮処分申立を行うのが通常です。担当の若い裁判官は、「世の中にはこんなこともあるんですね」と驚きながら、私たちの申立を認めてくれました。
次いで、私たちは、名義人の業者に対して私道の名義移転を、また名義人の業者と売主の双方に対して損害賠償を、それぞれ求めて提訴しました。当初、売主は雲隠れしていて、訴状も送達できませんでした。名義人の業者だけが応訴してきて、「他人のものとは知らずに買った。自分も被害者だ」と主張しました。
不動産の二重売買と登記
本件のようなケースは不動産の二重売買といって、売主の行為は業務上横領罪に該当する可能性もあるのですが、民事上は、原則として先に登記を取得した者が勝ちということになります。
しかし、先に登記を取得したこの業者が「背信的悪意者」などといえる場合には、この業者の登記は無効なものとして、Aさんは自分に登記名義を移すよう求めることができます。
最近の判例の考え方からしても、本件は十分いけるケースと思われましたが、問題は、事実の鍵を握る売主が雲隠れしていることで、このまま勝負となると微妙な部分は残ります。裁判官は、正義は私たちの側にあるということは十分理解してくれていたようですが、仮に一審で勝訴しても控訴されてひっくり返されては困ります。そこで、私たちは、和戦両用で手続きを進めました。
雲隠れした売主の居場所をつきとめて
転機は、被告業者が反対尋問で売主の不動産業者と会った場所を口にしたときに訪れました。私たちは、これを手がかりに、インターネットも使って、ついに売主の所在を突き止めたのです。
これを裁判所に報告して、ようやく訴状が送達されました。とたんに、売主から代理人弁護士を通じて和解の申し出があり、事件は解決に向かうことになりました。和解内容は、私道の共有持分を名義人の業者からAさんに移転すると共に、売主の不動産業者がAさんに迷惑料を支払うというものでした。
こうしてめでたく下水道工事手続は再開されました。Aさんらが居住する分譲住宅に下水道工事が完成するのも間近いことでしょう。