降給・降格|労働問題の法律相談

Q1 人事考課で最低のE評価を受け、昇給も見送られてしまいましたが、納得できません。

人事考課
人事考課とは、職務の遂行度、業績、能力を評価し、それを人事管理に反映させる仕組みです。人事考課の結果は、労働者の昇給、ボーナス額、昇進昇格や降格など、労務管理のさまざまな場面に反映されることになります。

近年、労働者の年齢や勤続年数を重視する年功序列型人事制度から、個々の労働者の能力や成果を重視する成果主義への転換が進んできました。

能力主義や成果主義の賃金制度では、しばしば査定に会社の主観が入り込むため、評価(査定)の公正さや公平さが問題となります。

近年、納得性・透明性を高めるために、人事考課結果を労働者本人に開示する企業も増えています。まずはこうした資料の開示を求め、不明点があれば説明を求めることが大切です。

人事考課の裁量権濫用の判断基準
人事考課には使用者に広い裁量権があるとされています。しかし、この場合でも、使用者が裁量権を逸脱したり濫用したりしたときは違法となり、損害賠償が認められることもあります。

裁量権を逸脱・濫用したかどうかは、査定の手続と内容の両面からみていく必要があります。

とりわけ、近年、重視されているのは手続面です。そこでは以下の基準が適正さを判断するポイントとなります。

 ①公平で具体性のある評価基準が設定されているか
 ②客観的な評価方法が整備されているか
 ③評価を処遇に反映させるルールが明確に設定されているか

たとえば、人事評定期間以外に生じた事実に基づいて行った昇給査定は違法とされます(マナック事件・広島高判平成13年5月23日)。

また、手続面で公正さが担保されているとしても、内容面で恣意的な評価をすれば、やはり違法です。

たとえば、営業経験のない者にとってはおよそ上げることが不可能な成果を求めたり、担当した顧客によってはおよそ上げることが不可能な成果を求めたりして、その成果を上げられないことを理由に原告らをD評価に査定したという場合には、その評価に合理性が認められません(NTT西日本(D評価査定)事件・大阪地判平成17年11月16日)。

Q2 査定の結果、職能資格を下げられ、課長から係長に格下げされましたが、納得できません。

職位の引き下げか、賃金の引き下げか
一般に「降格された」という場合、それが「職位の引き下げ」なのか、「賃金の引き下げ」(降給)なのかを区別しなければなりません。

前者は、使用者の就業規則の根拠などがなくても、使用者の人事権の行使としてできるとされているのに対し、後者は、労働契約の変更ですから、就業規則などの根拠規定を要するのはもちろん、その裁量の幅も狭く解されているからです。

降格
職位(部長、課長、係長など)とは、企業がその組織運営上の必要から設けるポストのことです。企業は、適材適所の見地から、原則としてどの労働者をどの職位(ポスト)に就けるかについての自由を持っています。
したがって、「職位の引き下げ」には、一般に、使用者の裁量が広く認められていますが、使用者側の業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力・適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度などを総合考慮して、権利濫用とされる場合もあります(大阪府板金工業組合事件・大阪地判平成22年5月21日)。

また、職位の引き下げに連動して賃金額が大幅に下がる場合には、労働者への打撃が大きいことから、降格的配転として、通常の降格や配転よりも厳しい基準で権利濫用が判断されます(日本ガイダント事件・仙台地決平成14年11月14日)。

降給
「職能資格」や「職務等級」などの引き下げによる「賃金の引き下げ」には、賃金規程上の明文の根拠が必要とされています。したがって、このような根拠もなく、職能資格を引き下げることは許されません(アーク証券(本訴)事件・東京地判平成12年1月31日)。

また、規定上の根拠があるだけでは足りず、降給の決定過程に合理性があり、その過程が当該労働者に告知されてその言い分を聞く等の公正な手続が必要とされています(エーシーニールセン・コーポレーション事件・東京地判平成16年3月31日)。

さらに、降給事由に該当するかどうかも厳格に判断されます。たとえば、降給基準に「本人の顕在能力と業績が資格に期待されるものと比べて著しく劣っていること」とあるときは、その根拠となる具体的事実が必要であるとされています(マッキャンエリクソン事件・東京高判平成19年2月22日)。