遺産分割の実際の進め方は?|相続・遺言の法律相談

弁護士 城塚健之

遺産分割の手続きはどのようにしますか

遺産分割は、相続財産(遺産)を相続人に個別に分けていく手続きです。まずは相続人間で協議するのが通常です。協議がととのったときには、「遺産分割協議書」を作成します。この場合、相続人全員の署名、実印での捺印、印鑑証明が必要です。

しかしながら、意見が合わないこともありますし、もともと、つきあいが疎遠になっていて話しにくい、という場合もあります。分割案に異論がなくても、とにかく実印を押すのを嫌がる人もいます。相手が高齢者だったり遠隔地に住んでいて説明するのがたいへんというケースもあります。

相続人間で協議が成立しないときは、家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになります。管轄は、調停の場合は相手方の住所地または当事者が合意で定める家庭裁判所、審判の場合は被相続人の住所地または相続開始地(亡くなられた地)の家庭裁判所です。調停が不成立の場合、自動的に審判手続に移行します。

このように、遺産分割協議は、案外、手間と時間がかかるものですが、弁護士に依頼することにより、これらの手続をスムーズに進めることができます。

遺産はどのように分けますか

たとえば、夫が亡くなり、相続人として妻と子2人(Aさん、Bさん)がいる場合を考えてみます。

夫の遺産として、不動産、預金、株式があったとします(預貯金については、かつては相続分に応じて相続人間で当然に分割されるので遺産分割の対象とならないとされていましたが、最高裁は、2016年に判例を変更して、預貯金は遺産分割の対象になるとしました。最高裁平成28年12月19日決定。)。この場合、妻が不動産、Aさんが預金、Bさんが株式、といった分け方をすることもできます。預金を解約し、株式は売却して、金銭で分けるということもできます。複数の不動産を、一つは妻、一つはAさんなどと分けることも可能です。

たとえば、夫が事業を営んでいて、Aさん1人がその事業を引き継ぐことになっている場合、対外的な信用や金融機関との関係を考えると、夫名義の事業用不動産(事務所、店舗、工場など)の所有権を法定相続分通りに分割するよりも、Aさんが単独相続するほうが望ましいかもしれません。

ただ、Aさんが相続財産の大半を取得すれば、他の相続人にとっては不公平な結果となります。このような分け方を他の相続人が納得できなければ、Aさんが代償金を支払うなどの方法でバランスをとらなければなりません。

合意が成立しない場合には、最終的には家庭裁判所が審判で合理的な分割を命じることになります。

預金や株式の相続手続きは手間がかかります

預貯金をおろしたり、株式の名義を書き換えたりするのはかなりの手間と時間がかかるのが通常です。金融機関ごとに書式の異なる分割協議書(遺産全体の分割協議書とは別に金融機関毎に作成を求められます)を作成することを求められますし、場合によっては本店や支店に来るよう言われることもあります。

なお、預貯金も相続財産とされますので、平成28年最高裁決定以後は、遺産分割協議書が作成されない限り、相続人の1人が単独で払戻しを受けることはできなかったのですが、その後の民法改正により、2019年7月1日以降に生じた相続については、「相続開始時の預貯金額×1/3×その相続人の法定相続分」による金額(ただし1つの銀行あたり150万円が上限)を、相続人の1人が単独でも払戻しを受けることができるようになりました(民法909条の2)。

遺産遺産分割はいつまでにしなければならないですか

遺産分割は、いつまでにしなければならないという期限はありません。相続税の申告期限は亡くなられてから10ヵ月以内とされていますが、これはあくまで税法上の期限であり、遺産分割の期限ではありません。この時点で分割ができていなければ、いったんは法定相続分にしたがって申告し、あとで清算をすることになります。