解雇|労働問題の法律相談

Q1 解雇は法律上どのように制限されていますか。

解雇は労働者に対して打撃的な影響を与え、その生活を大きく変えてしまいます。したがって、使用者は、きちんとした理由がなければ労働者を解雇することはできません。

労働契約法(労契法)16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。解雇は使用者のとる最後的手段であり、労働者の能力不足や勤務態度不良、あるいは企業経営の困難により、雇用を維持することが難しいことが客観的に明らかな場合でない限り、解雇は許されません(具体的には以下の各Qをご参照ください)。

また、これとは別に、法律上、さまざまな解雇制限がなされています。

①労災による休業中、産前産後の休業中、及びその後の30日間の解雇は無効です(労基法19条1項)。
②国籍・信条・社会的身分による差別としての解雇は無効です(労基法3条)。
③男女差別による解雇は無効です(雇用機会均等法6条4号)。
④育児休業、介護休業等を申し出たり、休業したことを理由とする解雇は無効です(育児介護休業法10条等)。
⑤組合を結成・加入し、あるいは活動したことを理由とする解雇は、不当労働行為として、無効です(労組法7条1号)。

このほかにも、個々の法律により、さまざまな解雇規制がなされています。

なお、法律上解雇できる場合でも、使用者は、解雇にあたっては、原則として、労働者に対し、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の賃金を支払わなければなりません(解雇予告 労基法20条)。もっとも同条違反の解雇がただちに無効というわけではなく、解雇予告通知後30日間を経過するか、通知後に予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかの時から解雇の効力を生ずるとされています(細谷服装事件・最判昭和35年3月11日)。

(能力不足・勤務成績不良を理由とする解雇)
Q2 「君はミスが多く、仕事ができない」と言われて解雇されましたが、納得できません。

多くの企業では、就業規則に解雇理由として、「能力不足」や「勤務成績不良」を規定しています。
 
しかし、「能力不足」や「勤務成績不良」というだけで、ただちに解雇ができるわけではありません。
 
まず、「能力不足」とは、客観的、合理的でなければならず、一方的な決めつけであってはいけません。そこでいう能力が業務と関係するものかどうかも判断基準になります。こうした具体的な事実の裏付けもなく、「積極性がない」、「協調性がない」等の抽象的理由だけでは解雇はできません。
 
また、「勤務成績」が不良の場合でも、使用者は、教育訓練や本人の能力に見合った配置(配置転換)をするなど、解雇を回避する措置を尽くさなければなりません。そのような措置を尽くしても改善が見込みがない場合にはじめて、解雇は有効とされます。
 
裁判例としては、解雇が有効というためには、単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ、また重大な損害が生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要するとし、かつ、その他、更生のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮すべきとして解雇を無効としたものがあります(エース損害保険事件・東京地決平成13年8月10日)。

相対評価で低い成績の者を解雇することができるか
大阪府・市で制定された職員基本条例には、相対評価で2年連続最下位の区分となったものは分限免職(解雇)ができるかのような規定が含まれています。このように相対評価で低い成績を理由とする解雇は許されるのでしょうか。

一般に、成績が他の社員に比べて悪い(相対評価)というだけでは、解雇は認められません。客観的に見て、もはや就労させることがふさわしくないほどの著しい成績の不良があって(絶対評価)初めて解雇は許されます。そもそも、相対評価のもとでは、常に誰かが最下位となってしまうのですから、仮に相対評価で最下位の者は解雇してよいということになれば、使用者は、いつでも誰かを解雇できるというおかしなことになってしまいます。

裁判例としては、就業規則の規定は、「従業員として平均的な水準に達していなかったとしても、それだけでは不十分であり、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときに限定して解雇を許容する趣旨である」として、人事考課は相対評価であって絶対評価ではないから、直ちにこれに当たるとはいえない、としたものがあります(セガ・エンタープライゼス事件・東京地決平成11年10月15日)。

即戦力として中途採用された者はどうか
高度な専門能力を買われて即戦力として中途入社した社員(例えば上級管理職、エンジニア、金融トレーダー等の専門職)についてはいくらか厳しい判断がなされる傾向があります。

裁判例としては、SE(システムエンジニア)として「会計システム運用・開発事業」に従事させる目的で中途採用した社員について、単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく、著しく劣っており、かつそれは簡単に矯正することができない持続性を有する性向に起因しているものと認められる、として解雇が認められたもの(日水コン事件・東京地裁平成15年12月22日)、途中入社の経済紙記者が、記事の質・量が足りないとしてなされた解雇が無効とされたものなどがあります(ブルームバーグ・エル・ピー事件・東京地判平成24年10月5日)。

(勤務態度不良を理由とする解雇)
Q3 「勤務態度が悪い」と言われて解雇されましたが、納得できません。

遅刻や欠勤、その他の勤務態度不良を理由とする解雇はよく発生します。しかしながら、そのような事情があったからといって、直ちに解雇が可能というわけではありません。

そこでは、①解雇の理由となった行為・態度が解雇に値するほど重大なものかどうか、②労働者が違反を将来繰り返す可能性があるかどうか(勤務態度に改善の見込みがあるかどうか)、③使用者が解雇に至る前に警告や注意などによって改善の努力をしたかどうか、などが考慮されます。

行為の重大性と改善の見込みがないことが必要
解雇が無効とされた裁判例としては、アナウンサーが1週間に2回寝過ごして放送が5~10分中断したことを理由とする解雇が無効とされたもの(高知放送事件・最判昭52年1月31日)、社員が親会社会長に声を出して挨拶しなかったことを理由とする解雇が無効とされたものなどがあります(テーダブルジェー事件・東京地判平13年2月27日)。

他方、解雇が有効とされた裁判例としては、労働者が重要な取引先の従業員に対し、「殺したろか」等の暴言を吐き、取引先の流し台を蹴って破損させたことを理由とする解雇が有効とされたもの(大通事件・大阪地判平10年7月17日)、労働者の飲酒癖が著しく(酒に酔って出勤する、勤務時間中に居眠りをする、嫌がる部下を連れて温泉施設で昼間から飲酒する、取引先の担当者も同席する展示会の会場でろれつが回らなくなるほど酔ってしまうなど)、最終的に欠勤し、使用者が大口取引先から要求されて行った解雇が有効とされたもの(小野リース事件・最判平成22年5月25日)、担当業務の遂行能力が不十分であった上、上司から業務命令を受けたり、上司や同僚から指摘や提案を受けても自分の意見に固執してこれらを聞き入れない態度が顕著であったとして解雇が有効とされたものなどがあります(日本ヒューレット・パッカード(解雇)事件・東京高判平成25年3月21日)。

使用者が改善の努力を尽くしたかどうかを慎重に考慮
使用者が、解雇前に、労働者に対する注意・指導や解雇以外の懲戒処分などによって、勤務態度を改善させるための努力を尽くしたかどうかも考慮されます。

裁判例としては、上司に面と向かって「頭が悪いのではないの」、「ネチネチと話をする」と述べるなどした労働者に対し、けん責処分後に解雇した事案について、「(当該労働者は)上司の指示、指導、注意に率直に耳を傾け、上司の意見を採り入れながら、円滑な職場環境の醸成に努力するなどといった、使用者が従業員に対して通常求める姿勢に欠ける面があった」としつつ、使用者が、けん責処分に対する労働者の反論や対応を見極めて、労働者と対話するなどといった方策が十分講じたとは認め難いこと、使用者が労働契約関係を維持したまま、他の懲戒処分を行うことに支障はなかったことなどから、解雇を無効としたものがあります(カジマ・リノベイト事件・東京地判平13年12月25日)。

(整理解雇)
Q4 会社の業績悪化を理由に解雇されましたが、納得できません。

整理解雇の4要件
経営状態の悪化した企業が、経費削減の一環として労働者を削減するために行う解雇を整理解雇といいます。この解雇は、もっぱら使用者である企業側の要因により労働者を不利益に取り扱うことから、裁判所は、いわゆる整理解雇の4要件(要素)を満たした場合に初めて解雇を有効とするという判例法理を確立してきました。

整理解雇の4要件は以下のとおりです。
① 人員削減の必要性があること
② 解雇回避努力が尽くされたこと
③ 人選基準とその適用が合理的であること
④ 労働組合もしくは被解雇者と十分協議したこと

一部に、4要件のすべてを満たす必要はないとした裁判例もありますが、多くの場合、裁判所は、4要件について、一つ一つ検討するという態度をとっています。

①人員削減の必要性について
一般に、企業が赤字だからといって、ただちに人員削減の必要性が認められるわけではなく、客観的に見て経営危機にあり、人員削減がやむを得ない場合でなければなりません(東洋酸素事件・東京高判昭和54年10月29日)。

裁判例では、会社更生手続中の会社で裁判所の認可した更生計画を根拠に人員削減の必要性が肯定されたものもありますが(JAL事件・東京高判平成26年6月3日など)、他方、民事再生手続中の会社で人員削減の必要性が否定されたものもあります(山田紡績事件・名古屋高判平成18年1月17日)。

解雇後に別の労働者を新規採用しているケースなどでは、人員整理の必要性が否定されることが多いと言えます(人件費の高い労働者を解雇して、人件費の安い労働者への入れ替えが許されないとしたものとして、泉州学園事件・大阪高判平成23年7月15日)。

また、削減の必要があるとされた人数以上に解雇した場合は、全員の解雇が無効となります(関西金属工業事件・大阪高判平成19年5月17日など)。

②解雇回避努力について
裁判例において、使用者が行うべき解雇回避努力として挙げられるのは、新規採用の抑制、残業制限、役員報酬の削減、配転、出向、転籍、希望退職者募集(これを重視したものとして、あさひ保育園事件・最一小昭和58年10月27日)などです。

③人選基準の合理性について
使用者による恣意的な人選を排除するために設けられた基準です。

高年齢者という基準については、不合理とはいえないとされたものもありますが(横浜商銀信用組合事件・横浜地判平成19年5月17日)、業務遂行能力の低下とは関係がないとして否定されたものもあります(ヴァリグ日本支社事件・東京地判平成13年12月19日)。

また、勤務成績や企業貢献度については、それが客観的なものであれば肯定される傾向にありますが、「適格性の有無」などといった抽象的な基準は合理性を欠くものとされます(労働大学事件・東京地判平成14年12月17日)。

④労働者との協議について
使用者が整理解雇を行おうとする場合は、当該労働者または労働組合との誠実な協議が必要です。  裁判例では、たとえ話し合いが平行線をたどる可能性があったとしても、使用者は組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきであり、整理解雇のように労働者に重大な不利益が及ぶ問題については、誠実に話し合うのが基本的なルールであるとした上で、話し合いをしようとしなかった場合には、解雇手続に相当性を欠くとして、解雇を無効としたものがあります(前掲泉州学園事件)。

Q5 「ジョブ型正社員」とはどういう議論なのでしょうか。

安倍内閣は、成長戦略の柱として、労働法の規制緩和を推し進めようとしています。そして、その一環として「ジョブ型正社員」(限定正社員)の普及を打ち出しています。

「ジョブ型正社員」(限定正社員)とは、職務内容、勤務地、勤務時間が限定されている正社員のことで、安倍内閣の産業競争力会議などでは、「ジョブ型正社員」は、そうでない普通の正社員よりも、比較的容易に解雇できるのではないか、という主張がなされています。

しかしながら、「ジョブ型正社員」だからといって、容易に解雇できるわけではありませんし、整理解雇の場面で「解雇回避努力が不要」とされることはありません。

たしかに、特定の工場で特定の業務に就いていたような場合には、その工場を閉鎖するにあたっての配置転換はそう簡単ではないかもしれません。しかしながら、一般にわが国の企業では企業の都合に応じて職種や勤務場所が変更されることが多く、裁判所も、職種や勤務地を限定する合意の存在は容易に認めません。また、仮に職種や勤務地が限定されていたとしても、労使の話し合いによる解雇回避の道がある以上、解雇回避努力が不要とされることはありません。

このように、「ジョブ型正社員」をめぐる議論は、使用者が容易に労働者を解雇できるようにしたいという願望に基づくものですが、それは法的にも誤っているものといわざるをえません。

また、正社員だからといって、あらゆる配転が法的に許されるわけではありませんし、無限定に残業を命じることも許されません。それなのに、「勤務地や勤務時間が限定されている正社員」を「ジョブ型正社員」と呼ぶのは、普通の正社員は、企業の都合に合わせてどこに配転されても当たり前、際限ない長時間労働に従事しても当たり前という誤解を与えるものです。

この点からも、安倍内閣が進めようとしている「ジョブ型正社員」の議論はとんでもないものと言わざるを得ません。