コラム

韓国「非常戒厳」と民主主義

2025.08.01

2024年12月3日、韓国の尹錫悦大統領は、突然、「非常戒厳」を発しました。「反国家勢力の体制転覆の脅威」を理由に、議会を停止し、集会・デモなどの政治活動を禁止し、メディアを統制下におき、ストライキ等労働者の活動も禁じ、違反した場合は裁判所の関与無く処罰するという布告です。憲法上の基本的人権を全て停止させ、権力を集中させるものです。

尹大統領は軍隊を国会に入れようとしましたが、多くの人々が国会議事堂に集まる中、駆けつけた国会議員らが戒厳を解除する議決を行い、わずか6時間で終息に至りました。民主化を求めるデモを軍隊が弾圧し、240人以上が死亡・行方不明になったとされる光州事件から45年。独裁政権下の苦難の記憶は今も残り、人々は「繰り返してはならない」と深夜国会へ向かったといいます。銃を構えた兵士と対峙する女性の姿は衝撃的でした。

2025年4月4日、韓国憲法裁判所は、違法な「非常戒厳」を発したとして、尹大統領を罷免しました。韓国では度々「戒厳」が布告されてきましたが、その大半が、後に憲法裁判所で、根拠のないものだったと判断されています。基本的人権・民主主義を停止する条項が、いかに濫用されやすいかが分かります。日本でも、憲法に「緊急事態条項」を盛り込むべきという議論がありますが、韓国で起きたことを見れば、そのような条項を認めてはなりません。

韓国の運動は若い世代に受け継がれ、学生や子ども連れの家族が、尹大統領の罷免を求める集会に参加しています。「民主主義は支える人あってこそのものである」ことも、深く印象に刻まれました。