コラム

医療事故解決のあらすじー(2)

2018.05.15

5 交渉の開始

弁護士が患者側の代理人として医療機関に責任を追及する旨の手紙を出すと、通常、医療機関は賠償保険の会社を通じて弁護士に依頼し、その弁護士から回答が来ます。

その回答は、暫く待って欲しいとした上で、保険会社あるいは担当弁護士の独自の基準による回答を提示してきます。

「担当弁護士独自の基準」としたのは、私自身のこれまでの経験の中で、どの弁護士が担当するかによって、事件の行く末が大きく異なることを知っているからです。

医療機関側弁護士の多数派は、患者側の主張を全て否定した上で、「文句があったら訴訟を提起してこい」という態度をとるもので、このような対応をされたら訴訟を提起するしか方法がありません。

他方、少ないながら、示談に応じる姿勢を示す医療機関側弁護士もいらっしゃいます。その中には、初めから過誤を認めるものの他に、明確に過誤は認めないものの過誤があることを前提とした示談交渉に応じるものや、過誤が無いことを前提とした示談交渉を申し入れてくるものがあり、場合によっては、当初は過誤が無いことを前提とした示談交渉を申し入れてきた後に、過誤があることを前提とした示談交渉に変じたこともあります。

私が想像するに、医療機関側弁護士としては、「文句があったら訴訟を提起してこい」と突っぱねるのが一番楽ちんです。過誤が無いのであれば裁判官が明確にしてくれるし、過誤があったとしても、裁判官が過誤を否定してくれたり、賠償額を値切ってくれたりするからです。また、敢えてそういう冷たい態度をとると、患者側が憤って訴訟を提起することになった結果、医療機関側弁護士が潤うのかも知れません。

しかし、実際に裁判が始まると、担当医師の負担は相当重くなります。裁判で患者側の主張が出てくる度に対応に追われ、いずれは裁判所に呼び出されて厳しい追及を受けることになりますから、仕事に追われて忙しくしている医師には大変な負担になります。特に、自身がミスを犯したことに気付いている医師にとっては、裁判期日の度に自分のミスを思い出して言い訳を考えないといけないのですから、その苦しみの強さは、容易に想像することができます。そのような医療機関側の負担を考えれば、冷たい態度をとって突っぱねるのではなく、示談によって紛争を解決しようと骨を折る医療機関側弁護士は立派であり、尊敬に値すると思います。残念ながらそのような医療機関側弁護士は少数で、私は数名しか知りませんが。

6 訴訟

医療過誤訴訟は、素人の裁判官に、プロの医師の処置に過誤があることを理解させる作業ですから、なかなか厄介な訴訟です。

医療過誤訴訟では、まず問題となる医療行為(例えば、胃癌切除後の縫合の不備)を特定した上で、その医療行為から結果(例えば、死亡)に至るまでの機序(仕組み)と、その医療行為が医療水準に違反していること(過失)、そして、その結果が、他の原因ではなく、その過失によって生じたといえること(因果関係)を、医学的根拠に基づいて論証する必要があります。つまり、医療機関側の過失の存在はもちろんのこと、そもそも当該医療行為によって当該結果が生じた機序と、当該過失と当該結果との間に因果関係があることについて、素人の裁判官を説得しないといけないのです。

しかも、医療機関側は、その専門的知見に基づいて、患者側の主張を全て否定してくるのですから、医療過誤訴訟を提起するには相当の覚悟が必要です。

患者側に立つ弁護士としては、協力医からの指導を得つつ、医療機関側に負けない専門的知見を身に付ける努力が必要になります。

7 医療事故のご依頼

以下に、患者側から弁護士が医療事故の解決を依頼された場合の道筋を概説します。

まずは、依頼者から事故の内容をお聞きします。これは通常の法律相談と同じですが、事実関係が込み入っていることが多いので、時間はかかります。

事故の概要を把握したら、客観的な資料(診療録など)に基づいて、事実関係を整理して、論点(どこに過失があると考えられるかなど)を洗い出し、洗い出した論点について、文献を調べて見通しを立てて、協力医の指導を仰ぎ、協力医の意見を踏まえて、事件の見通しを立てて、解決方法を提案します。ここまでを、交渉の前段階となる調査としてご依頼を受けます。

調査の結果、医療機関の責任を追及することになれば、まずは示談交渉から始めて、交渉が決裂したら訴訟を提起することになるのが通常です。

この点、当事務所では、協力に応じていただける専門医との間に強いネットワークを築いていますから、安心してご相談、ご依頼をしてください。