コラム

あるトラック運転手の死

2017.11.01

7年前のある日、深夜に仕事に行き翌日午後自宅に帰ってきたKさんは、外出中の妻に「からだがしんどい、今から寝る」と携帯へ電話した。家族が夕方に帰ってくると既に意識はなく、救急車で運ばれた先の病院で死亡が確認された。Kさんは深夜から昼過ぎまでスーパーなどに食料品などを運ぶトラックの運転手だった。

葬儀も終わりようやく落ち着きだした翌月のある日、会社の元同僚が自宅に弔問に来て話してくれた。

「一日12時間を超える長時間労働でちゃんとした休憩時間もない。次の仕事開始まで数時間しかない日もあり、自宅に帰る時間もなく会社の汚い倉庫で寝泊まりすることもあった。文句をいって首を切られた社員もおり文句も言えない。他にも倒れた人がいる。若い社員はやめていくが、高齢の社員は他に仕事もなく黙って働いている。Kさんは責任感があり仕事を投げ出さない。家族に心配をかけないようにしていた。このままでは皆が倒れてしまう。」ということであった。

相談を受け、会社の資料が無くならないように裁判所の決定で証拠保全した。

Kさんの死亡前一ヶ月間の拘束時間は375時間で、時間外労働時間は145時間。過労死ラインと言われる時間外労働80時間をはるかに超える過酷労働であった。労働基準監督署に過労死であるとの申立をして認められた。

その調査の中で、会社は大阪府の定める最低賃金:時給786円の口頭の合意があったとして最低限の賃金(時間外の割増後で時給990円)しか払っていないことがわかった。

しかし、調査すると、この786円の最低賃金額はKさんが死亡したときにはまだ決定されておらず、会社が死亡後に時間外割増賃金を払っているとするための架空の賃金額であった。

Kさんの妻は夫の命を奪った会社の責任を問う裁判を、今、たたかっている。