コラム

少年事件 家庭裁判所への送致を免れ不処分に

2017.06.13

当時19歳の少年は、団地の駐輪場から自転車を盗んだとして窃盗容疑で逮捕、勾留されました。

私は、早速、警察署で面会し、少年から事情を聞くと、彼は事実関係を否定していました。詳しく話を聞くと、彼は少年院を退所後、廃品回収業を営んで生計を立てており、妻と幼い子を養おうと懸命に働いてきたといいます。事件の当日は、廃品回収の声をかけてもらおうと現場となった団地周辺を低速で軽トラックを運転していました。
するとその団地の公園で年配の女性から「そこの自転車置き場の隅にまとめて置いてる自転車はいらんやつやから、持って行っていいよ。持って行ってもらったら助かるわ。」と声を掛けられて、そこから自転車を軽トラックに積み込み持ち去ったということでした。少年や少年の母親の意向も確認し、私が付添人(成人事件では弁護人といいます。)に就任し、当面の方針は、捜査段階で少年の弁解の裏付けをとり、不処分に持ち込むこととしました。

私は、早速、現場である団地に足を運びました。団地の管理事務所に駐輪場の管理状況を尋ねたり、実際の駐輪場の様子を写真撮影したり、公園で少年に声をかけた年配の女性についての情報提供を呼びかけるチラシを団地全戸にポスティングするなどしました。団地の住民の方からその年配の女性の存在について複数の情報提供があり、実際にその女性に会いに公園に4回ほど足を運びました。

その女性は団地の住民でない可能性もあり、実際にはその女性に会うことはできませんでしたが、団地の住民から複数の情報提供があり、実際に少年に声をかけた女性が実在する可能性があることや、駐輪場の管理状態が悪く、自転車を廃棄物と間違う可能性は十分あること等から、窃盗罪の嫌疑は不十分として、少年の釈放を求める意見書を作成し、担当検察官に送付しました。担当検察官とは面談も行い、事実関係を改めて説明しました。

その結果、逮捕、勾留で約10日間、警察署に留置されはしましたが、無事、家庭裁判所への送致を免れ、釈放されました。

もちろん、少年が本当にその自転車が廃品かどうかを十分に確認しなかったことは反省すべき点です。しかし、窃盗罪は故意犯ですので、不注意(過失)では窃盗罪は成立しません。

また、少年事件は、捜査機関は犯罪の嫌疑があれば事件を家庭裁判所に送致する義務があると(これを「全件送致主義」といいます。)され、成人事件のような起訴猶予処分はありません。しかし、全件送致主義も犯罪の嫌疑があることが前提とされるので、犯罪の嫌疑が不十分ならば、家裁への不送致もありえます。

以上、被疑者少年の弁解の裏付けを積極的に行うという捜査の初期段階からの付添人活動が奏功した事例を紹介いたしました。少年事件、成人事件問わず、弁護士への早めの相談をおすすめいたします。