コラム

人生の最後を託し、託される

2015.05.29

■Aさんの依頼

Aさんは子どもがおらず、「認知症になった後の財産管理や、死亡後の様々な処理を頼んでおきたい」と相談に来られました。生前の事務処理については、財産管理(事務処理)と任意後見の契約を結ぶことにしました。

身体が弱ったり、記憶力が衰えると、自分で役所や金融機関に行って手続をすることが困難になります。こうした時期に様々な事務の処理を頼めるよう、財産管理(事務処理)契約をしておきます。更に、認知症などで判断力が低下し、自分で判断が出来ない(意思能力がない)段階になった場合に備え、任意後見契約を結んでおきます。任意後見の段階になると、後見人が、裁判所が選任する後見監督人の監督を受けながら業務を行います。

死亡後には、病院代の支払、葬儀、供養(納骨・永代供養までの段階)などの事務処理ができるよう、死後事務委任契約を締結しました。

また、「財産は、親族に残すだけでなく、社会的に役立てたい」というAさんの希望から、公益的な団体に対する遺贈を含む公正証書遺言を作成しました。

■公正証書とエンディングノート

これらの契約は、全て公証人役場で公正証書として作成したものです。 Aさんの場合、財産管理・任意後見契約で1通、死後事務委任契約で1通、遺言で1通と、3通の公正証書を作成しました。

最近は「エンディングノート」が流行りです。Aさんの依頼もエンディングノートに書いておけば良いことと思われるかもしれませんが、意思能力がなくなった後や死後の事務処理は、ノートに書くだけでは効力がありません。また、エンディングノートに書いた内容を遺言と見ることが出来るかどうかで紛争になる場合もあります。大切なことについては公正証書を作成しておくことが重要です。

ただし、公正証書には細かい内容は書き込めないので、葬儀や供養についてのAさんなりの希望(葬儀はごく簡単に、親しくしていた人に手紙を出すなど)をメモにまとめてもらい、別途預かりました。エンディングノートの替わりといえます。

■増える任意後見・遺言作成

最近、任意後見の件数が増加しているそうで、私もAさんのような依頼を続けて受けるようになりました。

後見には、意思能力が低下した段階で、親族などが裁判所に申し立てる法定後見もありますが、任意後見を依頼するのは、「予め信頼できる人に頼んでおきたい」との心情からではないかと思います。死後事務委任契約や公正証書遺言作成も合わせ、「人生の最後」について、まとめて依頼することができるメリットもあるのでしょう。

弁護士の側から見ても、当事者の思いを聞き、細かい希望を踏まえて依頼を受けることが出来ると感じます。

高齢化が進むにつれ、後見や遺言の事件は増加の一方です。「人生の最後」を託される仕事、当事者の方の心情を大切にしながら、行っていきたいと考えています。