このたび、旬報社から、「最新テーマ別〈実践〉労働法実務シリーズ」(全13巻)が刊行されることになりました。 私はその編集委員ですが、第1巻の執筆も担当することになり、2024年7月、標題の書籍を上梓し …続きを読む
画期的な勝利
住友金属男女差別裁判は、去る2006年4月25日、大阪高等裁判所において、原告ら女性4名と、住友金属工業株式会社との間に和解が成立し、解決しました。
2005年3月28日に大阪地方裁判所が言い渡した原告勝利判決から約1年。
住友金属は、地裁判決を上回る合計7600万円の解決金の支払と、今後、在籍中の原告3名を含む女性労働者の処遇について十分な配慮を行っていくことを約束しました。
住友金属での男女差別を訴えてきた女性労働者の歴史的な勝利です。
住友金属の「闇の人事制度」による女性差別は違法
住友金属は、従業員に知らせないまま、事務職の従業員を5段階に分けた「闇の人事制度」に基づいて能力評価、昇給・昇進について差別的取扱いを行っていました。
「闇の人事制度」は、事務職の従業員を「イ=大卒男性」「ロ=高卒男性」「ハ=職掌転換者(技能職から事務職に転換した男性)BH」「ニ=職掌転換者LC」「ホ=女性」に区分し、女性については、学歴・従事業務に関わらず最低処遇の「ホ」に位置づけるものです。大阪地方裁判所判決は、この取扱いは、性別のみによる不合理な差別的で違法であると断じました。
この判決は、住友金属が、従業員に隠した「闇の人事制度」により女性を徹底的に差別していたという、本件での男女差別の本質を的確に認定した、大きな勝利判決でした。
運動の広がりの中で解決へ
原告・弁護団・支援の会(住友金属男女差別裁判を勝たせる会)は、大阪地方裁判所の判決後、住友金属に対し、「地裁判決に従い、早期解決をせよ」と求めてきました。淀屋橋・和歌山工場・安治川工場・東京本社等で、定期的なビラまきに力を入れ、街頭宣伝やパレードにも取り組みました。このような運動と世論の広がりの中で、住友金属が大阪地方裁判所の判決を受け入れ、解決に到りました。
苦闘の中での勝利への確信
この裁判の提訴直後、主任弁護士の雪田樹理弁護士が留学で留守になるため、助っ人を頼まれたことが、私と住友金属男女差別裁判との出会いで、以来10年余、現在に至ります。
当初、裁判に提出するために、住友金属の男女差別の歴史を調べることになり、原告さんたちの大先輩である大喜多敏江さんや住友金属に働いてきた女性の方々にお話を聞くことができ、住友金属での男女差別の事実を知ることになりました。その中で、この裁判が、これまで住友金属の男女差別に悔しい思いをしてこられた、たくさんの女性の思いのこもった裁判であると痛感し、「この裁判に勝ちたい」、という思いを強くしました。
ところが、2000年から2001年にかけ、同時期に提訴した住友電工、住友化学が相次いで大阪地裁で敗訴、裁判は、お先真っ暗の状態となりました。同じ轍を踏むことはできないと、住友金属の男女差別の仕組みの更なる解明に向けて、職掌転換者の履歴台帳、賃金台帳の住友金属からの提出を裁判所に求めました。
この段階で住友金属の証拠隠し(上記各台帳の4分の1を隠していた)が判明。裁判所の命令にまで背いて、住友金属が隠したかった証拠を明るみに引き出すことによって、「闇の人事制度」の実相が鮮明に浮かび上がってきました。この段階で、私は、「この裁判は勝てるかもしれない」と思うようになりました。
そして、「住友金属男女差別裁判を勝たせる会」の誕生です。住友金属における男女差別の実態、「闇の人事制度」と「証拠隠し」を社会的に明らかにすべく、裁判勝利をめざして運動が展開されていきました。目を見張るほど創造性あふれ、かつ熱心で、一歩もひかない粘り強い活動に、私は、「この裁判は勝てる」という確信を持つことができるようになりました。
所員一同の喜び
みんなの力で、引き寄せた勝利判決と勝利和解。この大きな闘いに参加できたことに、私は、誇りを感じ、嬉しい思いでいっぱいです。
この裁判では、大阪法律事務所から、私と原野早知子弁護士が原告弁護団に参加したほか、集会やパレード、住友金属宛ジャンボハガキ等の運動の取り組みに、弁護士・事務局員が参加してきただけに、所員一同、解決に喜びもひとしおでした。
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〈声 明 文〉
2006年4月25日
住友金属男女差別裁判原告・弁護団
住友金属男女差別裁判を勝たせる会
1、住友金属男女差別裁判は、本日、大阪高等裁判所第14民事部において、原告北川清子、同井上千香子、同笠岡由美子、同黒瀬香の4名と、住友金属工業株式会社との間に和解が成立し、解決に至った。
この和解は、2005年3月28日に大阪地方裁判所が言い渡した原告勝利判決を踏まえた合計7600万円の解決金の支払と、住友金属が在籍中の原告3名を含む女性労働者の処遇について十分な配慮を行っていく旨の約定を主たる内容とするもので、住友金属における男女差別を訴えてきた女性労働者の大きな勝利である。
2、大阪地方裁判所の原判決は、住友金属が、従業員に知らせないまま、事務職の従業員を5段階に分けた「闇の人事制度」に基づいて能力評価、昇給・昇進について差別的取扱いを行い、昇進・賃金の著しい男女格差を発生させたと認定した。この「闇の人事制度」は、事務職の従業員を「イ=大卒男性」「ロ=高卒男性」「ハ=職掌転換者(技能職から事務職に転換した男性)BH」「ニ=職掌転換者LC」「ホ=女性」に区分し、女性を最低処遇の「ホ」に位置づけるものである。原判決は、この差別的取扱いは、性別のみによる不合理な差別的取扱いとして違法なものであると断じた。
原判決は、原告の女性労働者らと、職掌転換者のうち「LC」の男性との差額賃金・差額退職金に相当する損害金を昭和61年以降認定した。更に、女性労働者が職掌転換者の中の上位である「BH」登用の機会を喪失したことを含め、「闇の人事制度」により差別されたことによる慰謝料を認めた。このほか、弁護士費用を男女差別による損害と認め、住友金属に合計約6300万円の支払を命じたのである。
原判決は、住友金属が、従業員に隠した「闇の人事制度」により女性を徹底的に差別していたことを正面から認定し、違法性を認めたもので、本件の男女差別の本質を的確に認定した、大きな勝利判決であった。
3、私たちは、原判決を受けて、住友金属に対し、「地裁判決に従い、早期解決をせよ」と求めてきたが、本日成立した和解は、住友金属の違法かつ徹底的な男女差別を認めた大阪地方裁判所の原判決を、住友金属が受け入れたものである。
和解に際しての、裁判所の勧告は、「性中立的システムが構築されたかにみえながら、実際には、賃金、処遇等における男女間の格差が適正に是正されたとは言い難い現実があり、真の男女平等をめざす精神が社会、とりわけ企業内に深く根付いていると楽観することはできない。このような現実は、真の男女平等に向けた意識改革が十分に深化することなく、均等法等を受けて、表面的な整合性を追い求めることからくるものではないかと思われる」としている。
裁判所の指摘は、我が国の企業社会において、男女間の処遇格差が是正されぬまま放置され、場合によっては、一見性中立的なシステムや雇用形態の違いという名の下に男女間の格差・差別が温存・拡大されている実態を正しく指摘したものである。本件の当事者たる住友金属のみならず、全ての企業においてこれを謙虚に受けとめ、男女間格差の是正を行っていくことを、私たちは強く望むものである。
4、本日の勝利解決は、我が国を代表する大企業であっても、違法な男女差別を行うことは許されないことを示したものであり、今なお男女差別に苦しんでいる多くの女性たちを勇気づけるとともに、我が国の企業社会において、男女差別と闘ってきた多くの女性労働者の闘いの歴史を一歩進めたものと確信する。私たちは、この勝利を一里塚とし、我が国の社会における男女差別撤廃の歩みが更に前進することを願ってやまない。
最後に、本件の勝利和解は、男女差別を許さない多くの女性・労働者のみなさんの支援の中で勝ち取られたものであり、原告・弁護団・住友金属男女差別裁判を勝たせる会は、提訴以来、長期間にわた