コラム

住友金属男女差別裁判~勝利判決から早期解決をめざして

2005.08.30

(1)10年目の勝利判決
既に何度か報告しているように、去る3月28日、1995年8月の提訴から9年半の審理を経て、大阪地方裁判所第五民事部(小佐田潔裁判長)は、被告住友金属工業株式会社が、違法な男女差別により事務職の女性従業員4名に損害を与えたとして、6311万2000円の損害賠償金支払いを命じる原告勝利判決を言い渡した。

(2)判決の内容
1、住友金属では、原告らと同時期に高卒で事務職で採用された男性の九七.六%が年功序列的に管理職一歩手前の「管理補佐職」まで昇進し、そのうち多くが管理職に昇進しているのに対し、高卒事務職採用の女性の大半は、三〇年以上勤務しても「管理補佐職」から三ランク以上下の「専門執務職」にすぎない。年収の格差は、平均して二五〇万円以上に及ぶ。当初技能職として採用され、後に事務職に転換した「職掌転換者」の男性と比較しても、女性は昇進・賃金とも明らかに下回る。
 
判決は、このような事務職の男女間の昇進・賃金の格差が顕著なものであり、男女差別により発生したと推認されるとした。

2、被告は、「男女間の格差は性別による差別ではなく、『本社採用』『事業所採用』という『採用区分』の違いによる」と主張した。しかし、判決は、緻密に会社の規程を検討し、被告の主張する「採用区分」の存在を否定した。
 
一方、判決は、原告らの入社当時、男女が別々の手続で採用され、採用後の配置業務・研修等も別々だったと認定した(「本件コース別取扱い」と呼称)。しかし、判決は、被告の能力評価制度の内容やその運用実態(男性が高位の評価を受け続けた結果、年功的に昇進している実態)を綿密に検討し、「本件コース別取扱い」は「男女間の顕著な昇進・賃金格差と合理的関連性を持つものではない」とした。
 
これまで企業側が採用時からの「男女別コース制」を主張した裁判においては、「男女別コース制の存在」イコール「格差の原因」と大雑把に認定され、企業側の主張が認められてきた。しかし、本判決は、被告側に「男女別コース制と男女間格差の合理的な関連性」の主張立証を要求することにより、「男女別コース制」の主張をうち破ったと評価できる。

3、さらに、判決は、被告が、従業員に知らせないまま、事務職の従業員を5段階に分けた「闇の人事制度」に基づいて、男女間で能力評価、昇給・昇進について差別的取扱いを行い、格差を発生させたと認定し、性別のみによる不合理な差別取扱として違法と判断した。
 
この「闇の人事制度」は、事務職の従業員を「イ=大卒男性」「ロ=高卒男性」「ハ=職掌転換者BH」「ニ=職掌転換者LC」「ホ=女性」に区分し、女性を最低処遇の「ホ」に位置づけるものである。「イロハニホ」の区分に応じて、昇進・賃金が示されており、その内容はまさに「男女賃金表」に準ずるものであった。
 
原告側は、文書提出命令申立などを通じて、「ロ」「ハ」「ニ」にあたる男性の賃金台帳・履歴台帳を被告に提出させ、昇進・賃金の実態を詳細に分析した。その結果、賃金台帳等の生の資料から導き出されたデータと、「闇の人事制度」の内容である昇進・賃金のデータがほぼ一致することを立証した。判決は、これらの数値の一致を重視し、男女間の処遇格差は、「闇の人事制度」に基づく昇進・賃金決定により発生していると認定したのである。
 
本件における差別の本質である「闇の人事制度」を正面から認定した点で、判決は、高く評価すべきものである。

4、差別によって発生した損害については、判決は、原告らと職掌転換者のうち「LC」(「ニ」)の男性との差額賃金・差額退職金に相当する金額が損害であるとした。損害は、昭和六一年以降現在まで認定された。
 
また、女性が職掌転換者の中の上位である「BH」登用の機会を喪失したことを含め、「闇の人事制度」により差別されたことによる慰謝料を150万円~300万円認めたほか、弁護士費用を損害と認定した。

(3)勝利判決を実現させたものと今後の課題
1、今回の勝利判決は、法廷での訴訟活動と、法廷外の運動が両輪としてかみ合った結果、勝ち取ることができたものである。

2、「闇の人事制度」の資料は、裁判の中で弁護団が入手したものであるが、それだけで男女差別が立証されたのではない。原告側で、文書提出命令により提出された生資料によるデータと「闇の人事制度」の数値との一致を立証し、「ハ」「ニ」に該当する「職掌転換者」の実態を協力者から聴き取り、証人尋問を行うなどの努力を重ねることによって、裁判所に「『闇の人事制度』による男女差別の労務管理」を認定させたものである。
 
判決そのものの理由には記載されていないが、女性に対する結婚退職強要、結婚・出産に対する報復的ないじめの実態を明らかにしたことも大きかった。新婚旅行から帰ってきたら、机が地下の廃棄物置き場に捨てられていたとか、産休明けに出勤すると、上司から「犬や猫でも自分で子どもを育てているのに、子どもを保育所に預けるとは犬畜生に劣る」と罵倒された(原告北川さんの例)など、その実例は信じられないものであった。
 
こうした差別の「事実」を一つ一つ掘り起こし、丁寧に積み上げる立証活動が裁判所を動かしたと考えている。

3、法廷外の運動による世論の高まりも、裁判所を動かす大きな原動力になった。
特にこの一年、「住友金属男女差別裁判を勝たせる会」が結成され、多様な活動を繰り広げた。淀屋橋・東京本社・製鉄所のある和歌山・安治川の工場等で定期的にビラまきを行い、「闇の人事制度」による違法な女性差別を広く知らせてきた。被告住友金属は、文書提出命令で提出を命じられた証拠を隠すという驚くべき違法行為を行っていたのであるが、この「証拠隠し」についても、住友金属が経営方針にかかげている「コンプライアンス」に反するものとして、ビラで違法性を指摘してきた。住友金属の社員を含めた関心は非常に高く、ビラはよく読まれた。
 
加えて、集会や、裁判所及び本社周辺のパレード、裁判所への「声」(陳述書集を書証として提出)の取り組み、結審後のジャンボハガキの取り組みなどを一つ一つ成功させてきた。
 
原告・弁護団、勝たせる会会長の森岡孝二教授が株主総会に出席し、差別の実態を知らせるとともに、証拠隠しの問題を追及した。
 
国会質問でも、差別の実態を取り上げてもらった。住友金属での女性に対する激しい結婚退職の実態については南野法相が「耳を疑った」とコメントし、従業員に隠した「闇の人事制度」については、尾辻厚生労働相が「言っていることとやっていることが違うのはまずい」とコメントした。
 
こうした運動の広がりと「住友金属の男女差別を許さない」という世論の高まりが裁判所を「原告勝訴」に動かしたといえる。

4、原告ら女性勝利の判決は、大きく報道され、世論にも好意的に受けとめられた。朝日新聞は「こんな企業は時代遅れ」との社説を掲載した。女性セブンの取材もあり、「許せなかった 女はみんなC評価」のタイトルで掲載された。判決は、何より、今なお職場の女性差別に苦しむ多くの女性たちに勇気と励ましを与えたと確信している。
 
しかし、住友金属は、判決後ただちに控訴し、裁判の舞台は大阪高裁に移った。既に裁判は10年目に入っており、早期の解決が必要である。
 
原告側は、地裁判決を踏まえて、早期に解決を勝ち取るべく、運動のスタッフ強化、和歌山工場前でのビラまきなど運動を更に広げている。
 
住友金属の役員らは、判決後に開催された株主総会でも、高裁であくまで争うとの姿勢をくずさなかった。しかし、そのような態度が、自らかかげる「コンプライアンス(法令遵守)」に果たしてかなうものであろうか。男女差別を是正し、本件を解決することが、企業としての社会的責任を果たす途ではないのか。
 
運動を広げ、「男女差別を許さない」世論を更に大きくして、住友金属を解決に向かわせることが今後の課題である。民法協の皆さまにも、引き続きご支援をお願いする次第である。

(「民主法律」263号・2005年8月)