コラム

素手と大砲のたたかい〜ある医療過誤事件から

2005.01.01

Kさん(当時47才)は、子育てをしながら夫の経営する鉄工所を手伝って元気に仕事もしていました。1999年8月ころ、手先足先がしびれるという症状が出てきて、近所の病院を受診、ある大学付属病院を紹介されました。こ

こで、「頸椎後縦靱帯骨化症」と診断。手術の危険について全くの説明もないまま、医師から手術を勧められ、Kさん夫婦は安心しきって手術を受けました。

ところが、手術によって、Kさんは全身麻痺状態となってしまいました。指先、足先1ミリも動かすことができません。Kさんは、大学病院と医師に対し、医療過誤として裁判を提起しました(担当弁護士は城塚弁護士、原野弁護士と私)。

裁判で、私たちは「医師が手術の際脊髄を損傷した」と主張、病院側は「長時間の手術でやむを得なかったのでミスはない」と反論してきました。

医療過誤裁判は、普通、患者の側は武器を持っていません。一方、病院の側は、専門知識やスタッフ、情報という強大な武器を持っています。素手と大砲での戦いです。

患者の側に専門知識を持つ医療関係者の方の協力がなければ、裁判そのものが成り立ちません。Kさんの裁判でも、何人もの医療関係者から、医療の素人である私達弁護士の疑問に丁寧に教えていただいたり、文献をいただいたり、ご意見をいただいたりして、裁判に取り組みました。

裁判官は、実際にKさん宅まで出かけて(出張尋問)、現実のKさんの姿を真剣に見、Kさんの、こころからの訴えを聞いててくれました。

証人調べを経て、鑑定人からの鑑定書が出され、この度、Kさんの主張を入れる形で和解が成立しました。 治療にあたる医師や関係者が、もう少しでも、慎重にことを運んでいたら防げたはず。医療過誤裁判を担当して、いつも痛感します。

裁判は解決したけれど、Kさんの闘病と家族の監護の生活は続きます。こうした事件から次の被害を出さないような教訓を病院関係者が受け止めてほしいと切実に思います。

(大阪法律事務所ニュース2005年1月号)