孔市良通信

ピレネー讃歌 vol.2「ピレネーの村々と山々の旅(その2)」

2015.08.04

1.レンヌ・ル・シャトー村へ
(1)ミディ運河
午前10時、カルカソンヌのホテルを出発して、45キロ先のレンヌ・ル・シャトー村へに向かう。カルカソンヌ村の郊外にあるミディ運河を見てみたいとの希望があり、運転手のフランクさんに立ち寄りを依頼する。
 
ミディ運河は240キロの長さを持つ運河で1996年世界遺産に登録された。ガロンヌ川沿いのトウルーズと地中海の港セトの西にあるトー湖の間を結んでいる。運河は階段状で機械で上下して船を運航させている。運河も船も美しい眺めであった。
 
これからレンヌ・ル・シャトー村に再出発することになるのだが、その前にこの村の謎について少々解説しておきたいと思う。

(2)レンヌ・ル・シャトー村の謎
「ダヴィンチ・コード」ダン・ブラウン(2003年)を読み直していて、この小説の種本が『レンヌ=ル=シャトーの謎―イエスの血脈と聖杯伝説』(柏書房1997)であることがわかった。
 
「ダヴィンチ・コード」は映画でも有名になったが、内容を要約すると、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の中では13人の男性が描かれていると言われてきた。しかし修復後の絵を見ると、そこに一人の女性が描かれていることがわかる。もともとヨハネといわれていたが、この女性はマグダラのマリアであり、キリストの妻であって、この二人の間には子供がおり、このことは秘密にされてきた。この小説の出だしはルーブル美術館の中でルーブルの館長が殺害されることから始まり、その孫娘が登場して犯人捜しに活躍するのだが、この孫娘がイエス・キリストの子孫だという筋書きである。
 
ダン・ブラウンは何を根拠にして小説を書いたかといえば、「レンヌ・ル・シャトーの謎」を参考にして、この小説を書いたのは明らかである。新しい視点として、ダヴィンチの「最後の晩餐」の絵画を謎の解明の一つの根拠として使っているところが趣味深いところだと言われている。「レンヌ・ル・シャトーの謎」でも、ニコラ・プッサン「アルカディアの羊飼たち」(ルーブル美術館)が重要な役割を担っているのが、美術と歴史の結合として興味深い。
 
レンヌ・ル・シャトー村とはどこにあるか。ここはカルカソンヌからピレネー山麓にむかう途中の小さな村で、モンセギュールに行く道筋にある。「レンヌ・ル・シャトーの謎」や「ダヴィンチ・コード」が出版された後は、沢山の観光客が世界から来るようになった。

2.レンヌ・ル・シャトー村
この村はピレネー山麓のランドック地方の小さな村ではあるが、13世紀前の西ゴート時代では、この地方の中心地であった。
 
西ゴート族は、キリストの神格を否定するアーリア人の異教を信じていた。
 
その子孫がメロヴィング朝を建て、ダゴベルト二世の死亡までガリアを支配していた。1059年、マグダラのマリアに献堂されたこの村の教会は、6世紀の西ゴート風の遺跡の上に建てられていた。
 
マグラダのマリアは、伝説によればイエスと結婚し、イエスの子を産んだ女性であると言われている。彼女はイエスの処刑、埋葬、復活に立ち会い、その後アリマタヤのヨセフとともに最初の布教者となって、南フランスに渡った。その後ヨセフは聖杯を持ってイングランドに旅立ち、マグダラのマリアは30年間南フランスのレンヌ・ル・シャトーに隠棲し、この間イエスの子供を産んで、ここで没したと言われている。
 
このレンヌ・ル・シャトーの地で、イエスの血は子孫に受け継がれ、660年余を経てメロヴィング王朝の下、ダゴベルト二世の血筋へと流れ込んだ。これらが「ダヴィンチ・コード」や、「レンヌ・ル・シャトーの謎」の主題なのである。
 
昔、アルルからも近いカマルグ地方サントマリード・ラ・メール教会を訪れて、「黒い聖母」を見たことがある。この教会でも紀元後40年頃ここに上陸したのは、マグダラのマリア、黒人のサラらと説明を受けた。黒い聖母はジプシーの守護聖人で、毎年ここに沢山のジプシーが集まって、黒い聖母像を先頭に盛大な祭り開いている。
 
ここからマグダラのマリアはレンヌ・ル・シャトーに来たと思われる。一方この地は、のちのカタリ派の中心地の一つで、カタリ派がモンセギュールで全滅させられる以前に既に占領されていたが、カタリ派の財宝がこの村に隠されていたという伝説も語り継がれていた。又、この地はサンチャゴへの巡礼の道筋になっており、中世は盛えていた。

3.レンヌ・ル・シャトーの財宝の謎について
1885(明治17)年6月1日、この村にベランジェ・ソニエールという33歳の司祭が新しい教区司祭としてやってきた。当時レンヌ・ル・シャトー村は人口200人、カルカソンヌから約25マイルの地で、19世紀のその頃は村も教会も荒れ果てていた。
 
1891年、ソニエールは1059年にマグダラのマリアに献堂された教会の修復に取りかかった。
 
その時、古風な西ゴート風の二本の柱の、柱の上の祭石を移動すると、空洞の一本の柱から木製の円筒に封印された4枚の羊皮紙を見つけた。これらの羊皮紙には暗号で書かれていたが、この暗号を解読すると次のような文になる。
 
「ダゴベルト二世王とシオンにこの財宝は属し、彼はそこで死んだ。」と。司祭のソニエールはこれをカルカソンヌの司教に見せ、これをパリの教会の権威筋にも見せにパリに出かけた。その後村に帰ったソニエールは教会の修復も終え、マグダラ塔を建てたり、村の水道道路など公共事業にも多額の金を使うようになった。1917年に65歳で死去するまでに、控えめに見て、数百万ポンドの金を使ったと計算されている。
 
遺産は女中のマリーがすべて相続したが、この人も1953年突然の卒中で死亡。どちらも金の出所を秘密にしたまま死亡したので、ソニエールは財宝を発見してこれを使用していたのだと人々は考えた。これがレンヌ・ル・シャトーの財宝伝説であり、今日まで騒ぎは続いている。
 
西ゴート帝国の財宝、カタリ派やテンプル騎士団の財宝、ダゴベルト二世の財宝、もっと昔ではエルサレム神殿の伝説的な財宝等々が隠されていたという、様々な説が主張されている。

  1972年2月「エルサレムの失われた財宝か」BBC放映
  1979年  「テンプル騎士団の影」    BBC放映
 
などの放映でレンヌ・ル・シャトーは有名になり、「レンヌ・ル・シャトーの謎」の出版された1982年の夏には、この小村は1万人を越える観光客であふれかえり、英語版からフランス語の出版した後は、この倍の人がやってきた。

4.二コラ・プッサン「アルカディアの羊飼たち」(ルーブル)とレンヌ・ル・シャトーの財宝の謎
(1) プッサンの「アルカディアの羊飼たち」(1640〜1642年頃の作品)は、三人の牧童とひとりの少女が大きな墓石の前に集まって、風化した石に彫られた「アルカディアにて我」という文字を見つめている構図の作品である。
 
この絵の場所はプッサンの想像によって描写されたものと考えられていた。しかし1970年代になって、この絵とそっくり同じ場所が発見された。その場所はレンヌ・ル・シャトーからすぐのアルク村で、しかもこの絵の背景なす山頂のひとつがレンヌ・ル・シャトーであることがわかった。
アルカディアとは古典神話では、牧歌的な天国という意味であるが、「ET IN ARCADIA EGO(そしてアルカディアにて我)」は暗号で、これを置きかえると、「I TEGO ARCADIA DEI(立ち去れ、私は神の秘密を隠した)」となるということである。

(2)これがレンヌ・ル・シャトーの財宝とどんな関係があるのか
① 司祭のソニエールが発見した羊皮紙を持ってパリに行った際、何回もルーブル美術館を訪れ、三枚の複製画を買い込んだ。この一枚がニコラ・プッサンの「アルカディアの羊飼たち」だったといわれている。

② ニコラ・プッサンの生涯を調べると、1656年当時、ローマに住んでいたプッサンをフランスのルイ14世の財務長官、ニコラ・フーケの弟、ルイ・フーケ神父が訪問した。この神父がローマからニコラ・フーケ長官にプッサンとの会見について、手紙を書き送った。
 
「プッサンと私はあることで話し合い……プッサンのおかげであなたが手に入れる巨利は、たとえ王であっても彼から取り上げることはできないでしょう。今後これは何世紀かかっても、誰にも手に入れられないそうです。これは見つけるのが非常に難しいので、今後世の中でこれ以上の富は考えられません。」
 
後日この手紙はルイ14世によって没収され、数年後プッサンの「アルカディアの羊飼たち」を手に入れ、ベルサイユ宮殿の私室にしまい込んでしまったという話が伝わっている。
 
これらの関連から、作品の墓石の下に秘宝か何か隠されていたのではないかと考えれるようになり、有名な話になったのである。

5.レンヌ・ル・シャトー村にて
レンヌ・ル・シャトー村は、小高い山の山頂にある村である。この村には11時40分頃到着した。この村から前方を眺めると、遙か下にランドック地方の村々や原野が小さく広がっているのがわかる。村の中では、人の姿は観光客以外は、見当たらない。静かなしんとした村である。
 
教会の中に入るが、小さな村の小さな教会といった感じで特別なものは見当たらない。村の端に大きなマグダラの塔があり、ソニユール神父の墓がその庭にある。ただこの小さな村が、かつてはこの地方の中心地であったと言われてもすぐには納得しがたいものがあった。
 
しかしマグダラのマリアが南フランスからこの地に来てイエスの子供を産んで30年間ここで生活し、没したという伝説は、なかなか興味深いものがある。現在何も無い村の歴史の中にも色々な事実が隠されているのも面白い。