コラム

歯科インプラント手術の医療過誤事件

2013.10.15

Xさんは治療中の歯が痛くなったので、A歯科医院で診てもらったところ、「インプラントしましょう」と、突然勧められました。歯科インプラント手術 とは、抜歯の上、人口歯であるインプラント体を埋め込む手術です。Xさんは抜歯やインプラントを埋めることに抵抗を感じましたが、A歯科医院の歯科医師は十分に説明をせず、急いで手術の日程を入れてしまいました。

歯や顎の骨の形・構造、神経の位置、顎の骨の硬さ等は個人毎に異なるので、インプラント手術を過誤なく実施するためには、事前にCT撮影による検査を行うことが基本です。A歯科医院でも、実は受付に「事前のCT撮影が必要」と記載したパンフレットを置いていました。また手術は身体へ影響を及ぼすので、事前に患者の同意書も必要です。ところが、A歯科医院では、XさんについてはCT撮影もせず、同意書も取らずにインプラント手術を行いました。
 
手術後、Xさんは手術部位の痛みが治まらず、他の歯科医院で診てもらったところ、インプラント手術を行った歯は抜歯する必要がなかったことや、手術そのものもインプラント埋込みの方向が間違っており、そのため、手術した歯の周囲の炎症が治まらないだけではなく、元々健全だった隣の歯にまで影響を及ぼしていることが分かりました。
 
Xさんに対するインプラント手術には、大きく2点の問題がありました。①事前に十分な説明をせず、本来不要な手術を実施したこと(説明義務違反)、②手術自体の手技(インプラント埋込み方向)を誤り、周囲の歯にまで影響を与える結果になったこと(手術内容自体の過誤)でした。
 
私は、Xさんから依頼を受け、A歯科医院に今後の治療への協力や、医療過誤による損害賠償を求めることにしました。弁護士会と協働関係にある、公益社団法人総合紛争解決センターの和解あっせん手続を利用しました。3人のあっせん委員が関与する手続ですが、この件では、歯科医師が委員に選任されたので、Xさんの受けた被害を理解してもらって進めることができました。
 
私はXさんの代理人として、A歯科医院の行ったインプラント手術の上記の問題点を指摘するとともに、今後の治療費・慰謝料等を含めXさんが医療過誤で受けた被害による損害額を算定して請求しました。何度かのやりとりの末、あっせん委員から、Xさんも納得する解決金額が提案され、これに応じて解決しました。
 
広く宣伝がなされ、多数実施されているインプラント手術ですが、Xさんの例のように医療過誤になる場合があります。歯科治療は一歩間違えば歯や顎の骨などに後々まで影響を及ぼすものなので、注意が必要だと考えさせられた事件でした。